#5 日本の地域資源・技術を活用したクラフトマンシップ 〜AND BLISS〜


中国地方は本州西部に位置し、瀬戸内海に面した山陽地方と、日本海に面した山陰地方からなる地域である。豊かな自然や神話、歴史文化に恵まれ、日本ならではの風景や暮らしが今なお色濃く残されている。
近年では、広島県・岡山県・山口県をはじめ、中国地方全体で外国人延べ宿泊者数が過去最高を更新するなど、海外からの注目も高まっている。こうした中、地域に受け継がれてきた資源や歴史、ものづくりの技術を強みに、新たな価値を創出しながら海外市場へ挑戦する企業も増えている。
CO:Designチームは、JETROとパーソンズ美術大学が共同で実施したワークショップに参加した中国地方を代表する5社を訪問した。各社のものづくりの現場を見学するとともに、経営者や職人が受け継いできた技術や哲学、そして海外市場への挑戦にかける想いに耳を傾けた。
本シリーズでは、各社のものづくりに込められた価値や地域とのつながり、さらに海外展開への取り組みを通して得られた学びや気づきを紹介する。
AND BLISS(山口県)
〜地域資源であるふぐのコラーゲンを活用した、世界初のせっけん〜
山口県は本州最西端に位置し、三方を海に囲まれた豊かな自然と歴史文化を有する地域である。海岸線の総延長は約1,500kmと北海道、長崎県、鹿児島県、沖縄県、愛媛県に次いで全国第6位を誇り、豊かな漁場に恵まれていることから、水産業が古くから発展してきた。
なかでも下関市は、全国各地からふぐが集まる日本有数の集積地であり、全国トップクラスの取扱量を誇る。こうした環境のもと、高度な加工技術と独自のふぐ食文化が育まれ、「ふぐの本場」として全国にその名を知られている。
また、周南市の粭島(すくもじま)は、鋼線を用いた「ふぐはえ縄漁法」発祥の地として知られる。延縄漁は一本の幹縄に多数の釣り針を付ける漁法だが、鋭い歯を持つふぐは通常の縄を噛み切ってしまう。そこで粭島の漁師たちは、釣り針の先に鋼線を用いる独自の漁法を考案した。この技術革新によって天然ふぐを傷つけることなく効率的に漁獲できるようになり、山口県のふぐ産業を支える重要な技術となっている。


我が子への想いから生まれた、地域資源を活かすものづくり
山口県周南市を拠点とする株式会社AND BLISSは、未利用資源であるふぐ由来のコラーゲンを活用した「FUKU SOAP」「FUKU FOAM」「FUKU MASK」などの美容石鹸や美容マスクを展開している。
代表取締役の惠良賀子氏がものづくりを始めたきっかけは、アトピーに悩む我が子への想いだった。ふぐの皮から抽出したコラーゲンをはじめ、米油や米粉など地域に眠る未利用資源の可能性に着目し、「心と体にやさしく寄り添うものづくり」を目指してブランドを立ち上げた。
その頃、地元のふぐ卸売会社では、食品ロス削減の一環としてふぐの皮からコラーゲンを抽出していたものの、その活用先が見つからないという課題を抱えていた。この相談をきっかけに共同開発プロジェクトが始まり、世界初となる、ふぐコラーゲンを配合した美容石鹸が誕生した。
世界初の挑戦が、グッドデザイン賞を受賞
この新たな挑戦は、2020年度グッドデザイン賞(ヘルス・ビューティー部門)の受賞という形で評価された。審査では、ふぐを「食材」ではなく「美容素材」として捉え直した世界初のコンセプトに加え、地域で活用されていない資源を新たな価値へ転換した先駆的な取り組みが高く評価された。また、海洋性コラーゲンは人肌の温度で溶けやすく、肌になじみやすいという特性を持つことから、ふぐの皮を美容石鹸の素材として活用する合理性も評価につながった。
パッケージデザインも特徴的である。一般的な美容商品の意匠に寄せるのではなく、店頭で思わず手に取りたくなるデザインを目指した。海を象徴するテトラポッドをモチーフにした三角形のフォルムは、かわいらしさと遊び心を備えながらも、地域性を感じさせる独自のデザインとなっている。その結果、発売からわずか1か月で初回生産分は完売。市場から大きな反響を得た。


地域のストーリーを、世界へ
現在AND BLISSは、このサステナブルなプロダクトを海外へ展開するため、パリやニューヨークなどの展示会へ積極的に出展し、テストマーケティングや販路開拓を進めている。
地域資源を新たな価値へと転換する発想に加え、山口ならではのストーリー、洗練されたパッケージデザイン、そして海外市場を見据えたブランドづくりは、今後のグローバル展開において大きな強みとなるだろう。


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