#8 日本の地域資源・技術を活用したクラフトマンシップ 〜鍛治工房弘光〜


中国地方は本州西部に位置し、瀬戸内海に面した山陽地方と、日本海に面した山陰地方からなる地域である。豊かな自然や神話、歴史文化に恵まれ、日本ならではの風景や暮らしが今なお色濃く残されている。
近年では、広島県・岡山県・山口県をはじめ、中国地方全体で外国人延べ宿泊者数が過去最高を更新するなど、海外からの注目も高まっている。こうした中、地域に受け継がれてきた資源や歴史、ものづくりの技術を強みに、新たな価値を創出しながら海外市場へ挑戦する企業も増えている。
CO:Designチームは、JETROとパーソンズ美術大学が共同で実施したワークショップに参加した中国地方を代表する5社を訪問した。各社のものづくりの現場を見学するとともに、経営者や職人が受け継いできた技術や哲学、そして海外市場への挑戦にかける想いに耳を傾けた。
本シリーズでは、各社のものづくりに込められた価値や地域とのつながり、さらに海外展開への取り組みを通して得られた学びや気づきを紹介する。
鍛治工房弘光(島根県)
〜日本刀づくりの技術を活かした、江戸時代から200年以上続く鍛冶屋〜
島根県安来市に工房を構える鍛治工房弘光は、200年以上にわたり鍛冶の技術を受け継いできた老舗鍛冶屋である。同社のものづくりのルーツには、日本刀製作を支えてきた「たたら製鉄」の文化と、代々受け継がれてきた鍛造技術がある。
たたら製鉄とは、砂鉄と木炭を原料に鉄を精錬する日本独自の製法である。この技術によって生み出される高品質な鋼「玉鋼(たまはがね)」は、日本刀をはじめ、包丁や農具など、日本の伝統的な刃物づくりを支えてきた。
島根県でたたら製鉄が発展した背景には、良質な砂鉄、豊かな森林資源、そして砂鉄を効率よく採取する「鉄穴流し(かんなながし)」の技術など、製鉄に適した自然環境が揃っていたことが挙げられる。こうした条件のもとで育まれた鍛冶文化は、日本刀をはじめとする高度な鍛造技術へと発展し、現在まで受け継がれている。




受け継がれる伝統と、新たな価値への挑戦
鍛冶工房弘光も、江戸時代のたたら操業からはじまり、打刃物、小農器具、生活用具そして刀剣鍛錬の鍛冶業を受け継ぐ一方、玉鋼、和鉄、鉄による工芸品の制作に取り組んできた。大量生産が主流となった現代においても、一つひとつの工程を職人の手で丁寧に仕上げる姿勢は変わらない。長い歴史の中で培われた技術と、日本のものづくりの精神を守りながら、伝統を次世代へつなぐ取り組みを続けている。
近年では、日本刀鍛錬の技法を活かした鍛造フライパンブランド「鍛月(TANGETSU)」を立ち上げた。一般的なプレス加工ではなく、鉄を何度も打ち鍛えて成形する伝統的な鍛造技法を用いることで、一点一点異なる美しい鎚目(つちめ)模様と高い機能性を兼ね備えたフライパンを製作している。鍛造によって鉄の密度が高まり、不純物が取り除かれることで、熱が均一に伝わりやすく、食材の旨味を引き出す調理が可能となる。また、調理後はそのまま食卓に並べたり、料理をサーブしたりできるデザインも特徴の一つである。調理道具としての機能性と工芸品としての美しさを兼ね備え、日本の伝統技術を現代のライフスタイルへと届けるブランドとして、国内外へ発信を続けている。


受け継がれてきた文化と技術を、「体験」を通じて次世代へ
また、同社は製品づくりだけでなく、観光客を対象に工房での鍛造体験も提供している。消費者としてプロダクトを購入するだけではなく、実際に職人とともに鍛造を体験することで、地域に受け継がれてきた文化や技術に触れられる、新たな価値を創出している。今回の訪問を通じて、地域の歴史や文化に根差したストーリーと、工芸品としての美しさを備えた唯一無二のプロダクトが、人々の心を惹きつける大きな魅力となることを実感した。


出典:



コメント